御正体山タイトル 日本百名山 槍ヶ岳 3180m、笠ヶ岳 2897m 登山日:2011年7月24-28日

「天気がよければ、ずうっと槍穂を眺める山歩きのはずだった。」

上高地から槍ヶ岳-双六小屋-笠ヶ岳-新穂高温泉とちょうど穂高連峰を眺めながら反時計回りにほぼ一周する山行きを企画した。時期は7月の最終週。例年なら梅雨明け直後、天候が安定し、最も山行きに適したシーズン。理想の山行きが出来るはずだった。
実際にどうなったかは、本文を見て欲しい。

☆☆所感☆☆
ハイカーには「自慢シー」が多い。「私はあそこの山に登った」「私はこっちの山に登った」、聞けばとめどもなく自分の登った山の自慢話が出てくる。それはそれで悪いものでもない。貴重な情報は、こちらが突っ込まなくても、とめどもなく溢れてくる。
多くの山で出会う自慢シーは百名山の話が多い。「おたくはいくつ登りましたか」とよく聞かれる。ところが、北アルプスの中心地、この地では様子が違った。
この地をどのくらい訪れたか、どんなdeepなコースを歩いているかが、自慢シーのネタである。試しに百名山の話をふってみても、まるで興味を示さない。やはりここはハイカーの中心地。ここを訪れることが、ハイカーの栄光なのだろう。百名山?、そんなものはどうでも良いものなのだ。
ライチョウ
西鎌尾根から双六小屋に向かう途中で出会ったライチョウ
天候が不順だった分、ライチョウには何度も出会う。
双六小屋、出立風景やっと見えている笠ヶ岳
クルマユリ肝心な槍ヶ岳は厚い雲に覆われている
見えているうちに撮った槍ヶ岳 ライチョウ
アカモノ 弓折岳分岐 シコタンソウアオノツカザクラと...
秩父平の少し手前 タカネヤズハハコ 槍ヶ岳山荘ミヤマオダマキ 穂先へ最後のハシゴ槍ヶ岳山頂の様子お日様が一瞬見えた
かろうじて見える槍の穂先シナノキンバイ
抜戸岩 笠新道への分岐 雪渓を左に見ながらオオバキスミレ
山頂の隣のピークにあった祠笠ヶ岳山荘本物の山頂 滝のようになった笠新道
ササユリ 槍見河原から見た穂先
横尾小屋の前
河童橋
行程
一日目
上高地バスターミナル 12:55
明神館 13:40
徳沢園 14:40
横尾山荘着 15:40
二日目
横尾山荘発 6:15
槍見河原 7:00
槍沢ロッジ 8:05
天狗池分岐 11:40
槍ヶ岳山荘着 14:55
三日目
槍ヶ岳山荘 7:05
槍ヶ岳山頂 7:35
槍ヶ岳山荘 8:25
千丈沢乗越 9:35
樅沢岳山頂 14:00
双六小屋着 14:35

四日目
双六小屋発 5:50
弓折岳分岐 7:10
秩父平 10:10
笠新道分岐 12:10
笠ヶ岳小屋着 14:15
五日目
笠ヶ岳小屋発 5:40
笠ヶ岳山頂 6:05
笠ヶ岳小屋 6:40
笠新道分岐 8:40
杓子平 10:20
笠新道登山口 14:30
新穂高温泉バスターミナル 15:30

難易度 ★★★★★
行程時間(含む休憩) 一日目:2時間45分
二日目:8時間40分
三日目:7時間30分
四日目:8時間25分
五日目:9時間50分
駐車スペース 沢渡
トイレ 各小屋
登山口 -
帰りの温泉 沢渡温泉
お勧め度 ★★★

   河童橋

7:00に家を出て、調布ICから中央高速。松本ICで下りて、沢渡の駐車場に車を置いたのは11:30過ぎ、そこから上高地にバスで向かい、バスターミナルに着いたのは12:50頃だった。
バスとタクシーしか入れないここには、ビッシリとバスが停まっていた。早晩、バスにも制限を加えないとパンクするのは間違いない。
水を補給し、出発。上の写真は有名な河童橋。とにかくすごい人手だ。人を見に来たのか、自然を見に来たのか。わからなくなってしまう。
「ふふふ、もっと素晴らしい自然はこの先にあるのだよ。」ちょっぴり優越感。

   横尾小屋の前

明神館を過ぎると、ぱったりと人がいなくなる。ある意味ここからが本当の上高地かもしれない。徳沢園を経て、横尾山荘に着いたのは16:00前だった。今日はここに一泊。風呂もある小屋だ。これからはしばらく風呂にも入れなくなる。充分に汗を流す。

二日目は6:15に出発。
横尾からは、柄沢-奥穂高、槍沢-槍ヶ岳、蝶ヶ岳-常念岳の3コースに分かれる。奥穂高に向かう人が最も多く、槍ヶ岳はその半分、常念岳へはちょこっとという感じだった。

   槍見河原から見た穂先

45分で、槍見河原。ここで初めて槍の穂先が見える。上の写真の黒い木の谷間にある穂先がわかるだろうか?上高地からトータル3時間30分。はじめてのお目見えである。

  雪渓を左に見ながら

槍沢ロッジの辺りから、少しまじめな登りとなる。ずうっと左に見えていた槍沢はいつのまにか雪渓に変わっていた。

   かろうじて見える槍の穂先


高山植物も目立ってきた。主力はシナノキンバイ。ミヤマキンバイ、オオバキスミレ、ハクサンイチゲ...。

ただ、天候はどんどん悪くなっていく。少し見えた槍の穂先は直ぐに霧の中に隠れてしまった。

  槍ヶ岳山荘

登るにつれ霧が深くなる。100m先も見えなくなり、やがてポツポツと雨が降ってきた。雨具を装着しなくてはいけないかな?と思った頃、槍ヶ岳山荘に到着。宿泊手続きをとっていると、本格的な降りとなった。ギリギリセーフ。

  穂先へ

三日目の朝は深い霧の中だった。何せ、目の前の槍も見えない状態。救いは雨は降ってない事。少し、山荘でウダウダしていたが、せっかくここまできたので、穂先に向かうことにした。

  最後のハシゴ

穂先へは往復でコースが分かれている。コースは今まで経験してきた危険箇所が連続してあるという感じ。パーツパーツは「これは難しい」というレベルではない。上の写真は山頂への最後のハシゴ。写真だとわからないかもしれないが、ほぼ垂直だ。
ハシゴを登りきったところが山頂だった。

   槍ヶ岳山頂の様子


山頂は、狭い。四方は断崖絶壁。女の子が真ん中に座り込んでいて立とうとしない。怖いのだ。自分も座り込みたい気分。幸か不幸か周りは真っ白で何も見えない。もし天気がよければ、最高の見晴らしだろうが、恐怖は倍加するかもしれない。小さな祠が立っているが、立って祠に向かう人はいない、みんな這うか中腰で祠に向かう。

  お日様が一瞬見えた

20分ほど山頂にいただろうか?景色は期待できないので、山荘まで戻ることにする。8:30頃槍ヶ岳山荘に戻り、西鎌尾根を降りて双六小屋に向かう。

   アオノツカザクラと...

千丈乗越までは、ガレ場の下り。そこからは岩場の軽いアップダウンになった。相変わらず視界が利かないので、景色も楽しめない。同じようなアップダウンが続くので、自分が何処にいるかもわからなくなってきた。
代わりに、雷鳥に良く会った。雲が低く、雨が今にも振りそうな日は狙い目なのだ。冒頭の写真はこの日3度目の雷鳥との出会いだった。彼らも我々が害を及ぼさない事を知っている。2-3mまで近づいても逃げようとしなかった。

   肝心な槍ヶ岳は厚い雲に覆われている

こんな日は、花も楽しみの一つ。アオノツガザクラ、コイワカガミ、イブキジャコウソウ、シコタンソウ、イワオウギ。
午後になると、少し雲が上がってくる。低いところは視界が利くようになった。上の写真は、歩いてきた尾根を撮ったもの。残念な事に、肝心な槍ヶ岳だけは厚い雲に覆われている。柔和の尾根の向こうに荒々しい岩峰が見られるはずだったのに...。14:30過ぎに双六小屋に到着.。

   双六小屋、出立風景

四日目の朝も天候は思わしくない。雨は降っていないが、雲は低く、いつ雨が降ってもおかしくない。下半身だけ雨具を付けて出発。

   やっと見えている笠ヶ岳

歩き始めると、薄っすらとこれから目指す笠ヶ岳が見えている。これが、今回の山旅、最初で最後の笠ヶ岳になるとは思わなかった。

   見えているうちに撮った槍ヶ岳

歩き始めると、すぐに昨日見られなかった槍が見えてきた。「みえているうちに」とシャッターを切ったのが上の写真。そして、これが今回の山旅、最後の槍になってしまった、


  弓折岳分岐

1時間20分で、弓折岳分岐に着く。多くの人がザックをおろしている。鏡池-新穂高温泉に下る人にとって、ここは最後の尾根、最後のアルプスになる。少々名残惜しいにちがいない。
我々は、そのまま尾根歩きだ。休まず通り越す。

  秩父平の少し手前

視界はドンドン悪くなり、四日目も花と雷鳥を楽しむ山行きになってきた。シナノキンバイ、ハクサンイチゲ、アカモノ、エゾシオガマ、タカネヤズハハコ...。雷鳥は3回。これだけみると、雷鳥もちょっと飽きてくる。
軽いアップダウンが続く。昨日と同じで、何処を歩いているかよくわからない。一箇所だけ、きれいなカールを時間をかけて登るところがあった。そこが秩父平。カールを登っている最中、ついに雨が降ってきた。上半身に雨具を装着。

  笠新道への分岐

カールを登りきると、比較的緩やかな道になる。霧雨の中、笠新道への分岐の道標を見つけたときは、正直ほっとした。
笠ヶ岳は遠くから見ると、その名のように笠の形をしている、実際には、笠よりも若干急勾配に見える。きっと、山頂に近づけば急勾配が待っていると心配していたが、いっこうにフラットなまま。

   抜戸岩

途中、面白い場所があった。尾根の真ん中に大きな岩があり真ん中が人が通れるように綺麗に割れていた。抜戸岩だった。
道は最後にガレ場の登りになり、笠ヶ岳山荘に。

   笠ヶ岳山荘

明日は、クリヤ谷へ下りるつもりであったが。山荘で聞くと、はっきり笠新道の下りを勧められた。クリヤ谷は、距離が長く、最後に渡河地点があり、大雨の時は渡れなくなるとの事。宿の勧めに従うことにする。

   山頂の隣のピークにあった祠

五日目は本格的な雨となった。風も強い。せっかくここまで来たので、まずは昨日行かなかった、山頂に向かう。ガレ場の登りを目印に気をつけながら、登っていくと祠があった。ここが山頂かと、「無事の下山を祈って」お参りをしていると、「山頂はこっちだ」という声が聞こえた。その隣のピークだった。長居は無用。記念写真だけ撮って山荘まで戻る。

  本物の山頂

ここからは山荘で知り合った、Oさん/Fさんの二人と下ることにする。知らない道を雨の中下る事になるので、経験者と一緒になることは心強い。Oさんは花に詳しく、いろいろ教えてくれる。Fさんは先頭に立って、導いてくれた。二人はこんな日に最適な携帯食を多数持っていた。中でも黒糖ドーナッツ棒は最高だった。熊本の名産らしい。

   滝のようになった笠新道
昨日通った道を笠新道の分岐まで戻り、ちょっと登って、いよいよ下りだ。横殴りの雨の中、道まで滝のようになっていた。
写真を撮りたいが、こんな雨にさらせば、メカがもちそうにない。できるだけ撮影は控えることにする。
杓子平からツヅラの下りになるが、なかなか高度が落ちない。あまりに急峻な山腹に無理やり道をつけたので、急坂を作ることも出来ないのでは?
標高2100m付近で、Oさん、Fさんと別行動をするようにする。お互いが気を遣いすぎるのも良くない。
分かれてすぐピンクのユリを発見。南東北で見られるヒメサユリかと思ったが、後で調べたらササユリだった。

とてもでないが、ゆっくり昼食を摂れる状態ではなかった。携行食で空腹を満たしながら、笠新道登山口に着いたのは、14:30過ぎ。
1時間ほど歩いて新穂高温泉バスターミナルに着く。平湯経由バスを乗り継いで、沢渡に戻ったのは
17:30過ぎだった。ここでようやく温泉に入り、平地の服に着替えた。ザックの中は、全て濡れていた。